毎週木曜日に配信している「データサイン・ランチタイムトーク」の模様をレポートします。当記事で取り上げるのは以下の配信です。
- 配信日:2025年4月10日
- タイトル:プライバシーに関する英国政府とAppleの争い
- スピーカー:DataSign(データサイン) 代表取締役社長 太田祐一
- MC:ビジネスディベロッパー 宮崎洋史
暗号化されたストレージに英国政府が難色示す
アメリカ合衆国(米国)の日刊紙、ワシントン・ポストは2025年2月7日、アップルが世界各地で運用するクラウド上の暗号化されたストレージに保存された個人情報に、英国政府が密かにアクセスできるように同社に要請したと報じました。
アップルはiCloudなどに保存されたデータを保護するE2E(End-to-End)暗号化技術「Advanced Data Protection」(ADP)を2022年から提供しています。ADPで暗号化されたデータを復号できるのは、プライバシー保護の観点からユーザーのみでアップルでさえも復号できないように設計されている点が、ADPのセールスポイントです。
英国政府の要求は犯罪捜査における証拠集めや通信の傍受に企業が協力しなければならないとする英国の調査権限法(U.K. Investigatory Powers Act of 2016)に基づく措置です。
独立司法機関が英国政府に公開審理を求める
同紙によれば、英国政府からの要請は取材した関係者からの匿名情報ですが、アップルはこの件について公のコメントを控えたと記されています。
そして記事発表から間もない2025年2月21日、アップルは英国におけるADPの新規提供を停止しました。
それから2カ月後の2025年4月7日、英国の捜査権限審判所(Investigatory Powers Tribunal:IPT)が、アップルの申し立て内容を支持する判決文を発表しました。IPTは英国における独立した司法機関です。今回のIPTの判決を歓迎するメディアや市民団体もあります。
「アップルはIPTに対して英国におけるADP提供の停止を不服とする申し立てをしていたとみられます。判決文ではIPTが英国政府に(密室ではなく)公開された審理を求めています」(データサイン 代表取締役社長 太田祐一)
背景にあるのは自国ファーストの駆け引きか
判決文ではさらに、米国の国家情報長官が米国議会議員に宛てた書簡の内容を引用しています。それによると、アップルまたは他の企業がバックドア(特定の通信内容にアクセスできる技術的手段)を設置することは、アメリカ国民の暗号化された個人データへのアクセスを可能にし、プライバシーおよび市民的自由の甚だしい侵害であり、サイバー攻撃に対する深刻な脆弱性を生み出すなどと批判しています。
米国は英国およびEU、スイスとの間でパーソナルデータの移転を認めるデータプライバシーフレームワーク(DPF)を構築していますが、これらは米国法のもとで強制力を有します。なお、EUと米国間のDPFについては米国諜報機関による監視の可能性を指摘する非営利団体の糾弾もあります。
犯罪行為を取り締まる各国の公権力と個人のプライバシー、さらに巨大データ産業のビジネス活動のバランスをどこに取るべきなのか。自国ファーストの動きが台頭するなか、オープンかつ民主的な対応が期待されます。